奇談 キダン

大学院生の佐伯里美は、子供の頃に神隠しに遭い、その記憶を無くしていた。彼女は失われた記憶を求めて、東北の「隠れキリシタンの里」を訪ねるのだった。渡戸村は徳川幕府の弾圧から逃れたキリスト教徒が作った隠れ里だが、その村の一部にある「はなれ」という集落の住人たちは村ができる遥か以前から全員がキリシタンだった。渡戸村の住人たちは「はなれ」をとても嫌っていた。そんな渡戸村で、調査に来ていた異端の考古学者、稗田礼二郎と出会う。二人で長老や寺の住職から村に伝わる話を聞き出し調査を続けているうち、「はなれ」の住人・善次が磔の刑に処せられたかのような遺体となって発見された。そして、里美が7才の時に共に神隠しに遭った少年が現れる。彼は当時の少年のままだったのだ。彼は『世界開始の科の御伝え』をつぶやき続け、そして忽然と姿を消してしまう。里美と稗田は、すべての謎の根源ともいうべき「はなれ」に向かう。だが、「はなれ」には知恵遅れの重太以外は誰もいなかった。そして、重太から「はなれ」の住人たち全員で善次を殺したという衝撃の事実を聞かされる。一方、その頃、教会に安置されていた善次が甦り、「はなれ」に向かっていた。それはイエス・キリストが復活したのと同じ、死後三日目のことだった。稗田は「はなれ」の住人たちの行動が『世界開始の科の御伝え』に書かれていることに合致することに気づく。そして、かつてキリシタン弾圧のさなか、多くの宣教師が殉教覚悟で日本に渡来した背景に、日本に『生命の木』が生えているという伝説が当時のヨーロッパにあったことを思い出していた。稗田は集落の外れに洞窟の入り口を見つける。その中へと歩を進める。里美の失われた記憶はしだいに鮮明に呼び覚まされ、すべての謎が解き明かされようとしていた。しかし、その穴の奥で彼らを待ち受けていたのは、彼らの想像を遥かに超える衝撃的な光景だった。